雑念が消えた世界で(1)

【枕を求めて】

「睡眠の環境を整えよう!」

昨日急に思い立って枕を求めてLOFTに向かった。向かう途中、空き地にフルーツサンドのキッチンカーが停まっており、その横の野ざらしのブースでチャラい兄さんがDJをしていた。謎だった。クリスマス間近の休日でLOFTはとても混んでいた。そんな季節感であることをすっかり忘れていた。誤算である。1人どうしたものかと思いながらとりあえず肩こりが緩和されそうなちょっとお高めの枕を買った。枕の箱がもの凄くデカい。人にぶつけそうになる箱をうまくコントロールしながら家に帰った。早速枕を取り出して横になってみる。確かに楽である。枕の中の詰め物を増減させて高さを調節できるらしいがとりあえずデフォルトの設定にしておく。これで眠れることができればありがたいのだが。

 

panpanya」という漫画家の作品が大好きである。特に短編集のタイトルにもなっている『枕魚』という短編がお気に入りである。ストーリーの中身はというと、肩こりに悩む主人公が枕を求めて寝具屋に行ったところ、なかなかフィットする枕が見つからない。するとぷにゃんとした感触で枕にすると寝心地が最高な伝説の魚「枕魚」の存在を店員から教えてもらい、枕魚を求めて産地の鹿児島県枕崎市(九州の南西)へ向かうという話である。

短編『枕魚』の凄い点は「知的好奇心に起因する圧倒的なフットワークの軽さ」である。寝具屋で枕魚の存在を知るコマから僅か1コマで新幹線に乗って枕崎に向かっているのである。枕を買うための行動にしては大胆かつ迅速すぎるのである。

また、この漫画家の作品に基本的に共通することとして「現実と空想が混ざったような世界観の街で、面白い・興味深い・謎めいた点を発見し、それをとてもロジカルに考察する点」が挙げられる。うっかり弁当箱から落として坂道を転がるおにぎりの軌道の分析など、着眼点がユニークでとても面白いし考察パートがしっかりした強度を持っていて架空の話でも納得してしまうのである。発見・フットワークの軽さ・考察の3点を踏まえて、この漫画は建築・まち歩きのバイブルだと思っている。院生の頃、4つ下の学生たちがそれぞれ自由に街を歩いて発見した点を発表する授業のTAをしたが、その時も参考文献として『枕魚』を挙げて、所有していたpanpanyaの作品全てを学生たちに貸した。どの短編集も愉快痛快なので是非。

 

また、別の機会にとある学生に稲垣仲静の『太夫』という日本画を紹介したことがある。稲垣は大正時代に京都で活躍し将来を期待されたものの、25歳で夭折した日本画家である。僕が高校生の時に、夏休みの宿題か何かで美術館に行ってその感想を書く課題があった。友達と京都国立近代美術館に行った時にこの作品を見た。一度下記のリンクで作品を見ていただきたい。

https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/103916

めちゃくちゃに怖いのである。寒気がした。一同が唖然としながら作品を見ていたところ、隣で見ていたおばさんに話しかけられた。どうやらこの方の親戚が稲垣にお世話になっていたとのことである。

「笑っているのにここまで不気味なのは不思議ですよね。」

この方はそうおっしゃった。太夫は芸妓や遊女の最上位である。美女であるはずの太夫を醜悪に描く、稲垣はこう表現しようと画策し、そして稲垣には太夫がこのように見えていたのである。

 

漫画や絵画、その他様々な芸術作品を鑑賞するのは、作者の様々な視点を覗き見できて楽しい。「世界観」という言葉があるが、これは「作者が世界をどう観ているか」ということであると思う。世界がどのように観えているかという表現のきっかけ・種があり、そしてそこからどのように表現するかを練る、作品の完成に近づいていくアプローチの段階に移っていくのだと考えている。

ゴールデンウィークの翌週に行われたまち歩きのプレゼンも、学生40人の着眼点が十人十色で本当にワクワクした。旅行のついでにとことこ歩いた男の子、何故か家の最寄りのバス停からバスに乗って山奥の集落へ突撃した女の子、凄くロジカルに考察している男の子、とにかく住民に聞きまくる女の子。本格的に建築デザインの演習が始まる前から、彼らは固有の世界観とアプローチを持っているのである。建築デザインのTAだった時の話はまた今度に。

 

枕魚

枕魚

  • 作者:panpanya
  • 発売日: 2015/04/27
  • メディア: コミック