西伊豆逃亡記 1日目

去年の11月に双極性障害と診断を受けたが、実際のところは10月からめまいで休職している。いざ休職することとなったが何をしようか。まず思い浮かんだのは伊豆半島への逃避行である。数々の文豪と同様に心を思い詰めた人々は伊豆半島へ向かうという偏見さえ持っている。伊豆半島が僕を呼んでいる。しかし休職中に旅行して社内で咎められないだろうか。不安になった僕はネットで「休職中 旅行 炎上」と検索したが特に法に引っかかることはないようだ(それでも社内の方もしご覧になっても内緒にしてください)。それに、リフレッシュすればめまいもきっと収まるだろうという希望的観測を持っていた。なんとなく心の問題である予感がした。温泉と休息がめまいを解消してくれる、そう信じて誰にも内緒で10月中旬の休日に伊豆半島への逃避行を決行した。

エッセイや漫画を読みながら在来線でガタゴト3時間程、沼津駅で降りた。さすが聖地、街中ラブライブのオンパレードである。残念ながら僕は東條希の人間火力発電所クソコラとにこにーしか知らない。沼津駅からバスで1時間かけて伊豆半島中央に位置する伊豆長岡の宿へ向かう。元々ひどく乗り物酔いするタイプなのであるが、めまいのせいで電車やバスに乗っている時、歩いている時も大差なく常にふらっとしていた。めまいが乗り物酔いを無効化した。

15時に宿に到着すると、どうやら檜風呂を貸し切りできるようである。到着した客から貸し切り時間を指定できるとのことで、一番乗りの僕は一番風呂の時間を指定した。それからGoToキャンペーンのクーポンをもらって客室に到着した。窓際に机と椅子2つがある広縁付きの客室で妙に落ち着く。そして指定した時間になったら大きな檜風呂でぼしゃんと湯の中へ沈んだ。檜の良い匂いがする。ああ、ここはユートピアじゃけえと思いながらじっくりお風呂を満喫し客室でまた漫画を読んだ。

近くにおいしそうな中華料理屋さんがあるとのことで向かう道中、日本一長い足つぼ遊歩道を発見した。パッと見た感じ1周100mはありそうだ。遊歩道を1周し、ゴールにある足湯で温まると健康に良いという。いざ遊歩道に挑戦してみたがこれが苦行であった。序盤でHPを削った後にとても細かい石が置かれた道が突如出現するのである。この遊歩道を設計した人間はドSである。そういえばたまに行く足つぼマッサージ屋さんのOさんも、「おまえ本当に大学生バイトか???日々のストレスを僕の足裏にぶつけてないか???」というくらい凄い力で僕の足つぼを粉砕する。「私は他の方と違って容赦しません。身体の悲鳴をちゃんと聞いてあげてください。」がOさんの口癖である。いつも「僕が悪かったですすいませんでした。」としょぼんと懺悔して家路につくことになる。Oさん曰く胃や膵臓などの消化に関する部位が疲れているとのことで偏った食生活を注意された。一方で、九州男児の血を継ぐ僕は肝臓が意外と強いらしく、「よっしゃまだまだ酒が飲める!」と即座に喜んだら殺すぞと言わんばかりの冷酷な視線がこちらを向いた。この遊歩道をぐるぐる回れる程、Oさんの地獄スクラッパーみたいな足つぼマッサージに耐えられる程になったら長生きできるのだろうか。そう思いつつちびっこ達が遊ぶ公園の中で悶絶の声を上げながらやっとの思いで1周し足湯に飛び込んだ。

散々の責め苦を受けた後、中華料理屋さんでカレーチャーハンと餃子をいただいた。店内のTVで静岡のローカル放送で平野ノラが映っていた。産休のため本日を持って番組卒業らしい。これを見ててっきり平野ノラは静岡県出身なんだなあと思っていたが、日記を書いている今調べたら東京都出身だった。

コンビニで酒を買って客室に戻る。元々1泊2日の予定だったが、なんだかこのノスタルジックで穏やかでほのぼのした時間に愛着が湧いてしまい、急いで西伊豆にあるホテルの翌日分の予約をとった。思いがけない2泊3日である。社内の人に怒られないだろうか、いや、回復を祈って足つぼ苦行という艱難辛苦を乗り越えたんだ、僕は治療に前向きである許されるだろう。そう願って眠りについた。