ショートコント・シミュレーション

やっぱり眠れない。けれども眠れない理由はもうはっきりとわかった。どう頑張っても頭の回転が止められない。頭の中で複数人が同時に話し続けている。過去に起こった会話、現在の感情に基づく独白、これから起こりうる未来の会話が光の速さでめまぐるしく巻き起こる。まるで過去の経験に基づいて不確かな未来を完全に予測するかのように、心配性スパコンてきちゃん1号は深夜も不眠不休で計算し続ける。未来を全て予測して心配の無い安息の世界を得たいがために。未来なんて想定外だらけで予測できるはずないのに。もし電極を頭にくっつけて頭の中の会話をスピーカーに出力できたならば、遠足の小学生集団が乗り込んだ電車の中みたいな爆音がする。

布団に潜り込んでそういえばこの街の科学館にまだ行ってないなと思った瞬間、白衣に丸眼鏡の僕は広い理科室のような空間に立っている。チョークなどを準備している間に遠足で科学館にやってきた小学生たちがわらわらと部屋に入ってくる。

「どうも皆さんこんにちは、科学者のてきちゃんです。」

そう自己紹介をした後、気体の種類や性質の違いなどを説明する。そして大きな液体窒素のタンクを持ち上げて、バラの花にかけてカチカチにしてみせる。そのあたりでやっと僕はその職に就く確率は低い、これは到底起こらない未来であり、面白いけど真面目に考える意味が無いと気づく。

液体窒素でバラが凍る光景、それは僕自身が小学生の頃に科学館で実際に見たものである。過去の経験がおかしな未来予測に繋がっていく。歪んだ未来の科学者てきちゃんが対面した小学生の中に、歪んでいない過去の小学生てきちゃんが紛れ込んでいる。東野圭吾の『探偵ガリレオ』の影響を受けて物理学者に憧れていた高校生てきちゃんも潜んでいる。脳内を走る電車は理科室に変容して、小学生、高校生、大学生、様々な僕が押し寄せて定員オーバーでぎゅうぎゅう詰め。廊下から立ち見する聴講生も現れ満員御礼である。

僕は毎日夢を見る。寝る前の脳内コンピューターの暴走と同様に科学者、教師、芸人、大学生など様々な僕に化けている。塾講師バイト時代のように高校生相手にセンター現代文の授業をしている。夢の中で明日の仕事をしていることもある。ショートコントを毎日している感覚である。頭の計算が止まらずに眠れない時間、これは起きながらにして夢を見ていると言えるかもしれない。もしくは計算が夢の世界でも止まらないとも。眠れない時間と夢がシームレスに繋がっているので、起きた時に現実か夢かわからなくなることもある。爆発的加速度で暴走する思考回路は日記を書く原動力だし楽しいけれども、24時間フルスロットルはちょっと大変です。