MV学概論第1講 -MVとは何か-

皆さんこんにちは、MV(Music Video)学概論の講義を始めます。私は本講義を担当する的山学院大学芸術学部MV学科の的田助教授です。本講義は私が所属していた研究室でゲリラ的に発表していたものを元にしています。研究室時代の友人が本講義を見ると懐かしい内容もあるかもしれません。

昨年5月からちくま文庫が『現代マンガ選集』を毎月1巻、全8巻刊行しました。このシリーズは「表現の冒険」「日常の淵」「少女たちの覚醒」といった8テーマで、決定的な傑作、知られざる秀作を集め、日本の社会と文化の深層を浮かび上がらせることを目的としています。

「これのMV版がしたい!映像作品の考現学もあるはずだ!」

と最近熱望していたのですが、ついに本講義で実現することになりました。僕は元々芸術学部の出ではないので浅学なのですが、たくさんMVを集めてみて、見比べて、「これ面白いじゃん!」という感覚が共有できれば幸いです。

ただ、私事ですが最近は音楽をサブスクで聴くようになってしまい、それもあってか昔のようにYoutubeに張り付いてMVを監視することが少なくなってしまいました。そのために若干情報がアップロードされていない面もあるかもしれませんが、ただMVの面白さの本質は大きく変化していないと確信しています。最近のMVで面白いものがあれば、どんどん教えていただけるとありがたいです。試験は無し、出席点100%です。それでは身近な芸術であるMVの面白さを探求していきましょう。

 

初回講義ですので、まずはMVとは何かについて軽く紹介します。MVの歴史を遡ると、始まりはザ・ビートルズのようです。新曲をリリースする度にテレビ番組に出るのが面倒で、予め映像作品を作ってテレビ局に提供したのが始まりと言われています。以降、QueenBohemian Rhapsody』、Michael Jackson『Thriller』、Earth, Wind & Fire『Let's Groove』などの名作が次々に生まれました。これらの作品は、主にシングル曲の販売促進を目的に作られています。

日本では1990年代初頭あたりからMVが発展したと言われています。1989年の『ザ・ベストテン』の放送終了など生放送の歌番組が衰退し、番組出演の代替となる販促手段としてMVが注目を浴びたことになります。MVがかつてはPV(Promotion Video)と言われていたという事実がそれを如実に表しています。1993年の『第35回日本レコード大賞ではついにミュージックビデオ賞が登場しております。

ただMVを視聴する環境が非常に限られているという、現在とは全く異なる点があります。店頭での視聴、音楽番組での放映、CM、他番組でのスポット使用ぐらいでしょうか。そして販促を目的としているので顔と歌声を覚えてもらわないといけません。必然的にPVは歌ったり演奏したり踊ったりする映像になってしまいます。初代ミュージックビデオ賞に選ばれたTRFの『EZ DO DANCE』も終始踊りっぱなしです。1990年代中頃からアーティストと映像作家が手を組んで曲の世界観を映像で伝える試みも起こり始めているのですが、先程述べたような限られた視聴環境のためなかなか届かないという問題が残ったままでした。

例えば、私の幼少期を思い出すとMVを見る場面は2つありました。まず、めざましテレビの芸能コーナーもしくはミュージック・ステーションのシングルランキング。ただし、これらはMV全体のうち非常に限られた部分しか見ることができないです。もう1つはボウリング場のモニター。これだとMV全体を通しで見ることができるものの、ボウリングの音がうるさすぎてなかなか音声が聞こえてこないです。

そんな状況だったのですが2005年に登場したYoutubeは革新的な変化をもたらしました。誰でもMVを制作・アップロードし、誰でも視聴できる環境が整ったのです。そして、顔や歌声を覚えてもらう映像ではなく、ストーリー性のある映像でもプロモーションとしての効果が得られるようになりました。こうしてアーティストたちは映像作家とタッグを組み、既存の枠にとらわれないMVをどんどん生み出すことになります。アクセス数・バズを狙ってどんどん斬新な表現の模索も進んでいきます。このような流れでMVの芸術的価値はより高まっていくことになります。ただ、MVで気をつけたいのは予算をかければかけるほど面白くなるとは限らないという点です。低予算でも発想さえあれば爆発的な面白さを生みだすこともあります。低予算MVもテーマとして取り上げていろいろ紹介できればと思います。

 

本日は最後にYoutube登場以前の日本のMVをいくつか紹介したいと思います。宇多田ヒカルの『traveling』についてはサビの部分を見たことがあるかと思います。CGとアニメーションを活用し、ヴィヴィッドな色彩、記憶に強烈に焼き付く作品です(ミラクルひかるもこのMVの衣装でよくモノマネしますよね。誰の記憶にも焼き付いて共有されている、それほど印象的な作品です。)。ただ、意外とラストまで見たことがある人は少ないのではないかと思います。賑やかなサビと対照的な、ラストの静かな風景の描写は非常に美しく感じられます。また、当時としてはかなりレアであるプロモーションそっちのけのフリーダムな作品も掲載しました。是非見比べてみてください。

次回は「映像の魔術師」と称されるフランスの映像作家ミシェル・ゴンドリーの作品を中心に取り上げます。なお、今回紹介した参考MVを下記URLのリストに整理しました。毎回このように整理する予定です。本日は以上になります、ありがとうございました。

https://youtube.com/playlist?list=PLO6M7qDxny1jiwvZjuiNbTYIBCvSNW2jB

 

EZ DO DANCE / TRF

 

traveling / 宇多田ヒカル

 

魔弾 〜Der Freischütz〜 / T.M.Revolution

 

BE / SUPERCAR