MV学概論第2講 -血と汗の魔術-

【本講義の参考MVリスト】

https://youtube.com/playlist?list=PLO6M7qDxny1hxa7f2CV3zhz7y_BTvdacg

皆さんこんにちは、MV学概論を始めます。本日紹介する作品は7つです。講義の終わりまで結構時間がかかると思いますが、面白い作品を集めてきましたのでどうぞお付き合いください。

 

まず最初に見るのは、The Chemical Brothersの『Star Guitar』という作品です。「映像の魔術師」と称されるフランスの映像作家ミシェル・ゴンドリーが手掛けた作品で、日本でも映像表現に関する授業でよく紹介されています。要はMVの教科書にあたります。とにかく一度作品を見て、彼の魔術を見破ってみましょう。

いかがでしょうか。たまに彼の魔術のトリックに気づかない方もおられますので、メイキング映像も紹介します。答え合わせしてみましょう。

彼が唱えた魔術は「音楽のリズムとMVの風景を完全にシンクロさせる」というものです。それによって聴覚だけでなく視覚を用いてより作品の中へ没入することができます。

ただ今回この作品から強く伝えたいのは、「魔術を発案しても、唱えられるとは限らない」という点です。私は建築専攻の人間だったのですが良いアイディアが浮かんでも、それを実現させるための手数が多すぎて、とても面倒でアイディアを手放すということが往々にしてありました。「思いつく」と「完成する」は全くの別物です。これは恐らく全ての表現に言えることだと思います。

『Star Guitar』の場合だと、メイキング映像のようにまずアイディアが浮かんで紙にリズムを書き出してみる。それぞれのリズムにオレンジやほうきなどを割り当てて地面に並べてみる。これならできると確信したら風景の動画を集めてCG・合成してやっと完成です。アイディアを浮かんでから完成までの道程が非常に長いのです。車窓の風景が不自然にならないように編集するのも途方のない作業です。もちろんCDのリリース日などもありますので、MV完成のタイムリミットもあるはずです。そのような非常にギリギリな環境の中で、アイディアを発案し、試行錯誤を重ねてクオリティの高い作品を完成させるのはまさしく魔術師の腕の見せ所です。

ミシェル・ゴンドリーの作品はどれもユニークで楽しい作品ですが、いざ自分がMVを制作する姿を想像すると気が遠くなるかと思います。

Come Into My World / Kylie Minogue

Let Forever Be / The Chemical Brothers

 

さて、第2講のテーマは「血と汗の魔術」です。秀逸なアイディアであるとともに、それを実現するために凄まじい試行錯誤・手数を踏んだと思われる作品を集めました。魔術にはとてつもなく長い詠唱時間が必要であることを感じていただければと思います。制作の裏側を見るような気持ちでいろいろ見てみましょう。

続いては日本の作品に目を向けてみたいと思います。まずはgroup_inouの『EYE』です。

これも恐ろしい作品です。Googleストリートビューにアーティストの画像を合成させて、体験したことのない視点移動とともに風景を疾走するMVを制作しています。作業期間は2ヶ月間、ロケハンに1ヶ月かかり、アーティストのコマ撮り画像を2日で3,600枚撮影する狂気の工程です。ストリートビューの画像をダウンロードするソフトウェアも作っています。そして、ストリートビューにアーティストの画像を合成する最後の作業は1コマ1コマ全部手作業。監督の橋本麦・ノガミカツキの作品への執念が滲み出ています。本作品の制作に関するインタビューもありますので以下にリンクを掲載します。

https://www.dsp.co.jp/tocreator/movie/interview-movie/group_inou_mv/

 

次に紹介するのはthe chef cooks meの『最新世界心心相印』です。『ボブネミミッミ』などで有名なクリエイター集団AC部が制作。彼らの作品はこれからも講義に登場する予定です。この作品はというと、昔の3DCG(ベクタースキャン)のような表現を全部手描きでやってのけるという、これまた気の遠くなるような作品です。彼らの有名な『高速紙芝居』もそうなのですが、面白いと思った表現に対して手間を絶対に惜しまない姿勢が本当に好きです。

 

次はサカナクションの『ワンダーランド』です。この作品は先程公開されたものです。だからテンション上がって昨日に引き続いて2日連続で講義しているわけですね。とにかく見てみましょう。点滅するシーンもありますので、できるだけ明るい場所で見てくださいね。

実はこの作品、MVではありません。昨年行ったオンラインライブの映像です。生配信です。MVだと思った方もおられるかもしれません。サビに入るノイズの視覚表現は、Perfumeの紅白演出などで有名なRhizomatiksがプログラムを組んでリアルタイムで処理しています。カメラワークにも目を向けてみましょう。静かなメロでのカメラワークから一気に動的でブレていくサビのカメラ、計算尽くされています。『新宝島』などのMVを手掛けた田中裕介が総合演出を務め、「MVの世界をライブで表現する」のがこのライブのコンセプトなのですが、これをなんと生配信2時間ノンストップでやってのけました。僕もこの生配信を見ていたのですが、何一つ失敗を感じませんでした。凄まじく緻密な準備と集中力です。気になった方は3月にBlu-rayが発売されるので買いましょう(宣伝)。おそらく現在において視覚表現のトップランナーを担っているのはPerfume及びサカナクション、また彼らをサポートするRhizomatiks田中裕介などのクリエイターではないかと考えています。理由は単純明快で、彼らは「現実をMVに編集する」だけでなく「MV的表現を現実に呼び起こす」ことができる稀有な存在だからです。Perfumeの事例はまたの機会に。

 

最後にHASAMI groupの『グランドフィナーレ』を紹介します。実はこの作品の1:50以降の表現のトリックが私自身よくわかっておりません。ミクロな線がマクロな新聞記事や身体になってまた線へ消えていく表現。どこかでアニメーションから実写に切り替わっているはずなのですが、毎回見るたびに不思議に思います。HASAMI groupは既存の映画・映像をそのままMVに使うのですが、このMVの元ネタがわからないままという僕にとっては困った状態になっています(5ちゃんねるで誰かが質問してましたが結局わからず)。このようにどういうトリックかわからない、そして元ネタもわからないナスカの地上絵的MVもこのように存在します。

 

強力な発想を元に手間暇かけて突き進んだ作品を今日は見ていきました。結構お金のかかってそうな作品もありましたね。次回のテーマは『低予算の逆襲』です。安っぽくても面白い作品だってあるのです!次回をお楽しみに、本日は以上になります。