テレビから見た震災

10年前、僕は近所の歯医者でホワイトニングの治療を受けていた。治療が終わり待合室のテレビを見ると、震度7の文字が浮かぶ。治療中に大地震があったらしい。その時代に漂っていた閉塞感に変化が起きるんじゃないかという気がした。なんだか興奮して急いで家に帰ったが、津波の映像を見てそれどころではないと直感した。

僕は西日本の人間だし、親戚・友人に東北の人が全くいない。テレビから震災をぼんやりと見る10年間を過ごした。ただ、テレビっ子だったはずの僕は震災を境にテレビへの興味を完全に失った。それは間違いない。震災が瀕死のテレビにとどめを刺したとさえ思っている。

 

昔からテレビが好きで音楽、お笑い、バラエティ番組、いろいろ釘付けで見ていた。が、2009年のTBS・読売テレビの番組改編で一気にテレビがつまらなくなった。TBSはうたばんなどの人気番組の時間帯を変更して新番組を打ち出したが、新旧番組が共倒れで終了になってしまった。読売テレビは月〜金曜サプライズを19時台に打ち出したが、低調で火曜以外のサプライズは終了となった。

この頃からAKB48や少女時代・KARAがテレビに映るようになった気がする。大島麻衣がいたころのAKB48は「劇場で会える」アイドルという真新しい感じがしたのだが、2009年に大島麻衣が引退したあたりからテレビへの露出が急加速したように感じる。テレビで会えるようになると、どうしてもかわいい女の子を揃えて数撃ちゃ当たる状態にしているというか、おニャン子クラブリバイバルのような、売り方が20年前のまま変わらないように感じてあまり好きではなかった。握手券商法も好きじゃない。総選挙は劇場からテレビへ飛び出しすぎている。バラエティ番組に出てもそんなに面白くない(モジモジくんに出演してもそこまで体を張らない。その点、渡辺満里奈とか宜保タカ子回の工藤静香はヤバい。)。そのためAKB48が当時大嫌いだった。バラエティ最強の大家志津香となんだかAKBっぽくない光宗薫だけ大好きだった。

という訳でなんだかテレビが面白くないという閉塞感を2009年頃から抱いていたのだが、震災後の自粛ムードでテレビは木っ端微塵になった。自粛ムードが無くなり始めた時には、各局でことあるごとにあまちゃんのテーマが流れてなんだか不思議な気がした。どう考えても東日本と西日本で生活の雰囲気が異なっているのに、各局で均一的にあまちゃんのテーマがこれでもかと流れている。能年玲奈は好きだけど不思議だし不気味にも思った。異常だと思っていたのは僕だけだったのだろうかとたまに思う。

 

大学生になった時に友人から学生団体に誘われ、決起集会に顔を出した。この団体で何をしようという話になった時に「被災地に行ってみたいよね!」という話題になった。それも凄く違和感があった。手段が目的になっているような。なんだか画面の中の世界に行こうよみたいなポップな言い方だった。物見遊山的感覚のバカが被災地に行っても邪魔になるだけだと感じた。結局、その学生団体に参加するのをやめた。

しばらく経って宇野常寛の『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』を読んだが、目を引く内容があった。AKB48が被災地で、自衛隊が活動しているそばでライブしているのを『超時空要塞マクロス』的なニュー・スタイルのアイドルのように表現していた。確かにニュースでその光景を見た覚えがある。マクロスも戦場で歌姫が祈りを込めて歌うけれども、マクロスAKB48を重ねる視点は無かったので目から鱗だった。現地でアイドルが歌う、握手する、応援する。被災地で会えるアイドル。本人たちも不安でどうしようもなかったと思う。AKB48は嫌いだったけど、その機動力のあり方は凄まじいと思った。同書によるとAKB48はテレビで会えるアイドルに戻っているとのことだが、またずば抜けたマクロス的機動力を発揮する日が来てしまうのだろうか。何もない日々が連続することを祈る。

(追記)

今も被災地支援活動をなされているようです...!凄い!

 

震災から10年、今の自宅にテレビは無い。もちろん良質な番組があることは重々承知だけれども、バラエティの薄ら寒いノリについていけない。裏を返せば僕はマーケティングの対象ではないのだろう。別にテレビが無くても生きていける。物議を醸した岡村隆史の「嫌なら見るな」発言もちょうど10年前らしい。その言葉の是非はともかく、「マス」メディアの力が大きく失われ、個の時代に突き進んでいった。同じテレビ番組をリアルタイムで見ることが減り、YoutubeNetflixなどで好きなものを各々が見る時代。一方でAKB48マクロス的なアイコン、それに「会う」ことで与えられる勇気、エモーション、情、それらの正体は結局何なのだろうか。震災からコロナ禍の10年間、その後やってくるかもしれない南海トラフ、その軸線上に位置する「会う」が引き起こすエモーションの正体を考えていたい。

 

 

若い読者のためのサブカルチャー論講義録

若い読者のためのサブカルチャー論講義録

  • 作者:宇野 常寛
  • 発売日: 2018/03/13
  • メディア: 単行本