さんぽみち・レポートⅠ

22日、金曜日の夕方。円頓寺商店街にやってきた。「円頓寺 本のさんぽみち」の実行委員長である師匠と合流する。巻尺で長さを測りながら、各出店ブースの四隅にテープを貼っていく。いろいろな話をあれやこれやとしながら東西に長い商店街を歩いて、約30ブース分を淡々と貼っていく。

2年ぶりの開催で楽しみだけど、一方でコロナ禍の状況下。1日あたりの出店者数を例年に比べて減らしたりと様々な対策を講じるけれども、どれくらい賑わうかなど予測がつかない。蓋を開けてみないとわからない。ボランティアスタッフといえども気が抜けない。

師匠の巻尺が壊れており、先端から80cm分が巻き戻らない。ぶつけないよう周囲に気をつけながら巻尺を持って歩く。商店街の皆様に挨拶しながら西から東へ、こうして開催前日の準備完了。自宅に帰る。

家に帰って本を読んで、お風呂に入って寝ようとするが、明日からの日々が楽しみで少し興奮している。寝つけない。無印良品で買ったアロマオイルをストーンにぶちまけたら気を失うように眠りについた。

 

23日、土曜日の午前8時。円頓寺商店街に駆けつける。各ブースに出店者の屋号及び番号を記載した紙を床に貼り付ける。これも西から東へ。8時半頃、ボランティアの皆さんが揃ったので、集まって説明が始まる。僕は11時まで受付を担当するようだ。受付の手順を聞いて、9時から受付スタート。

 

アルコール消毒・検温の後、各出店者の配置を示した地図とアンケート用紙を渡す。アンケート用紙はイベント終了後に回収。

手元にある出店者リストの番号と、地図の配置番号が食い違っており困惑する。なんじゃこりゃとなって相談してみるが、よくよく見ると出店者リストは五十音順に並んだもので、配置番号と関係がなかった。早速に大ポカをやらかしてしまった。うっかりてきちゃん。

しかし、その後は手順に慣れてすいすいと受付手続きを進める。一緒に動いていると、だんだんスタッフの皆さんと打ち解けていく。中には僕の友人が出店したりしているので「今日はスタッフなんです、よろしくお願いします」と挨拶したりする。しれっとスタッフの中に紛れ込んでいるので大抵驚かれる。

本部に段ボール箱が設けられる。スタッフは持参した本をこの中に入れて売ることができる。今回、フジモテキイグチで売らないような本を置いてみる。ほとんどが実用書。職種がバレるような本をフジモテキイグチにあまり置きたくないという思いがあり、スタッフ箱にこっそり混入させる。

 

11時になって、ついにイベントスタート。ここからは受付を離れて交通整理の担当になる。持ち場について、ニコニコしながら周囲に溶け込んで観察する。自転車がスピード出していたら抑えるようにお願いしたり、商店街沿いから出庫する車を誘導したりする。そして、店主さんがお手洗い・昼食などで店を離れる時は、スタッフが代わりに店番をする。

そのあたりがスムーズに進むよう、あらかじめ持ち場周辺のブースの店主さんたちとコミュニケーションをとっておく。

「店番交代できますから気軽に声かけてくださいね。」

「この辺り、車の通行ありました?」

と同時に並んでいる本をチェックする。場合によっては「後で買いに行きます!」とお取り置きしていただく。安全確認をしながら、各店における陳列などの工夫点もこっそり盗み見る。30分ごとに持ち場を交代。交代・コミュニケーション・観察のシークエンス。想像していた以上にお客さんが多く来ていただいている。密になっていないか気にしつつ観察し続ける。休憩中のスタッフがホクホクした笑顔で本を抱えて西へ東へ。僕も休憩が待ち遠しくなる。

 

13時、1時間の休憩タイム。交通整理中に取り置きしていただいたお店で本を購入していく。

建築を中心に取り扱っているお店で本を見ていると、ご主人が奥の段ボールから高松伸の『建築設計のための教科書』をひょいと僕に手渡していただいた。ドローイングが美しくて即決で購入。建築の感じ方・見方がよくわからないド素人のまま大学を卒業したことが未だにコンプレックスなので、細々と読んでは巡礼して目を養いたいなと時に思ったりする。

尼崎の古本市でもお世話になっているお店で萩尾望都のエッセイを購入。少女漫画を読まなければと思いつつ、なかなか読めないでいる。読みたいものだらけである。

運営本部に帰る途中、呉服屋さんの店先にある本を見る。雪の結晶に関する本を収集している方が本を売っているようだ。そこで、物理学者の寺田寅彦(筆名は吉村冬彦)の随筆集『蛍光板』を発見する。初版昭和10年、表紙の装丁に着物の生地が使われている。本の上部(天側)は金色に染められてきらびやかに光っている。あまりにも美しく物珍しいのでこちらもお迎えする。

そういえば、実在の科学者を扱った高野文子の漫画『ドミトリーともきんす』にも寺田は登場している。その作品では雪の結晶や人工雪を研究した物理学者、中谷宇吉郎も登場する。そして、寺田と中谷の随筆集『どんぐり』が今年刊行されて、さっきどこかで見たような。急いで友人の「HUT BOOKSTORE」さんを覗くとやっぱりあった。裁断面が鮮やかなオレンジ色に染まった『どんぐり』は前々から読みたかった本である。このようにして別の本から連鎖して辿り着き、アシストするように購入へ踏み出すことが多いので古本市は本当に楽しい。スキップしながら本部へ帰る。「まーたてきちゃんいっぱい買っちゃって」と皆に言われる。

 

交通整理して今度は30分の休憩。三重県尾鷲市九鬼から出店されている「トンガ坂文庫」さんに伺う。入り組んだ湾に位置する本屋さん。漁村研究をしている藤本店長や後輩たちがお世話になっており、僕も2回九鬼に行ったことがある。挨拶すると、フジモテキイグチとSNSで相互フォローになっているので、何か変なことをやらかしているなと気づいていたものの、藤本さんから直接ゲリラ古書店の話がこれまで無かった模様。何故......

別日に出店する方が遊びに来るなどして、古本トークが弾む。その途中でいぐっちゃんが商店街に登場する。いぐっちゃんを紹介して輪っかが広がっていく。フジモテキイグチ結成から半年、お友達がたくさん増えた。楽しいことだらけだ。お客さん・出店者さん・スタッフさん・実行委員さん、マスクを付けているけれどみんな笑顔だ。活き活きしている。常日頃見えていないだけで、楽しいことだらけなんだ。平常時に戻って掴む非日常の感触を待ち遠しく思う。

そうしてあっという間にイベント終了の16時。各出店者からアンケート用紙を回収し、台車を走らせて出店者の搬出を手伝う。本部のスタッフ箱を確認すると僕の本が2冊売れていた。これを元手に明日も本を買う。本部の机や椅子も台車に載せて運び出していく。

 

そうして、元の商店街に戻る。夕暮れとともに点灯した電飾がチカチカする。

 

明日は僕たちが出店する。家に帰って、値段をつけていなかった本に値札を挟んでキャリーケースに詰め込んでいく。部屋にある3つの折りたたみテーブルを玄関まで運ぶ。出店準備があらかた終わると、購入した本を眺めてパラパラとめくる。どれから読もうか悩みながら養命酒を飲んで眠る。

 


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