アスフェス・レポートⅡ

翌朝6時30分に目が覚める。一応スマホを確認すると藤本さんからLINEが来ている。

「元気だったら這い出てきて設営手伝って!ちなみに7時30分集合ね!」

と書いている。ひえっ、見るんじゃなかったと少し後悔する。部活の朝練を彷彿とさせるその集合時間、USFESの朝は早い。まだまだ眠くて布団が恋しい。しかし、行かなかったらそれはそれで罪悪感が募りそうなので、お手伝いに行くかと結局腹をくくる。藤本さんは昨夜遅くまで準備していたはずなので、僕がブーブー文句を言う立場ではない。しかし、やっぱり眠い。

布団から寝ぼけ眼で這い出て、タオルを持って急いで大浴場へ行く。日の出から少し時間の経った日本海を眺めながら一息つく。

 

着替えて、歯磨きをして、ホテル横の会場へゴロゴロとキャリーケースを運び出す。地面がデコボコして引っかかるので、持ち上げておろおろとふらつきながら到着する。名古屋から数々の財宝を密輸し、ついにゴール地点にやってきた。帰りの荷物は軽くなりますように、ただただ祈る。

せっかくなので、朝日で輝く日本海を背景に本の写真を撮ってInstagramに投稿する。逆光でルネ・マグリットの『光の帝国』みたいになっている。とりあえずアプリで明るさ補正をかけておく。f:id:labotekichan:20211104102000j:image


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アスケンメンバーがぞろぞろ大集合、設営が始まる。出店者ブースの設営をする。タープの柱が中心にあり、その周りに2段重ねの机が6つ、六角形を形成する。向こうにあるもう一つの六角形には画家さんが絵を並べたり、アクセサリーを売ったりしているようだ。別のブースは出張整体師や、めだかすくい。毎回思うのだが、おもちゃ箱をひっくり返したような本当に不思議なイベントだなと思う。

 

フジモテキイグチは6面のうち2面を使わせていただけることになった。他2面はUSFESグッズ販売ブース、店番担当は藤本さん。フジモテキイグチとUSFESグッズの兼任。ちなみに、いぐっちゃんは別の用事で本日はお休み。残り2面は小学生ユニット「ももかのんあかり」。ネーミングがフジモテキイグチのそれである。ライバルだ、負けてられねえぞ。

 

9時頃からフジモテキイグチも出店準備を開始する。とりあえず、持ってきた本を全部キャリーケースから取り出してみるが、2人とも気合を入れすぎてとんでもない量になっている。そして、過去最高レベルでバキバキな本ばかり揃ってしまった。大型本も驚異の充実っぷり。売れるのかなと顔を見合わせる。僕が持ってきたのはザハ・ハディドの全仕事集、NASAの写真集、スウェーデンの鬼才シモン・ストーレンハーグのイラストレーション作品集『エレクトリック・ステイト』など。藤本さんはアート・美術系の本をたくさん持ってきている。こんな本読むんだという驚き。藤本さんの家に行ったことあるが、見覚えのない本だらけである。一度家宅捜索せねばならない。


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全ての本を把握したら、ジャンルごとに分けていく。アート・建築、漫画、科学、人文、社会。真正面はアートのエリア、面と面の境目にショップカードやフリペを置いてレジにする。レジの横に漫画のエリア、その横にその他ジャンルの本を並べる。

中段には本日の目玉である大型本を立て掛ける。地面に置いた藤本さんのキャリーケースには、魚や集落の風景を描いた漁村ポストカードを並べる。フジモテキイグチが所属していた研究室では藤本さん含めて漁村集落の研究をしており、現在三重県鳥羽市の海の博物館で展示会を催している。その展示会のグッズであるポストカードが高浜に登場。周辺の塩土・事代(ことしろ)集落のポストカードもある。ポストカードを見ると「塩土のペガスス」とタイトルがついている。ペガサスではないところが、なんだか良い。展示会メンバーが物凄く張り切ったようで、20種類以上作っちゃったんじゃなかろうか。藤本さんが紙にポストカードの種類をリスト化して、どれが何枚売れたか集計できるようにしていただいたが、よくこれだけたくさん作ったなと驚くばかりだった。


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11時、USFESがスタートする。ぱっと見て来場者数は多そうだ。暖かいお日様のもとで、みんなのびのびと朗らかな様子。風が気持ちいい、素敵な1日になりそうだ。

隣のももかのんあかりブースを見ると、シルバニアファミリーの大きなおもちゃや絵本、劇場版鬼滅の刃のパンフレットなど、何でもありの品揃えである。値段は100円もしくは物々交換。ももかのんあかりとフジモテキイグチ、やりたい放題のその中に、意外と親和性があるかもしれない。

イベントの時に持ってきているゾッキサングラスを取り出す。装着すると誰でも大橋裕之の漫画『ゾッキ』に登場するキャラクターになれる。こっそり装着すると、ももかのんあかりにすぐにバレる。

 

「変態だーっ!!」

 

と叫ばれる。こらっ、周りに人がいるから、怪しくないからやめてやめて。

そのままサングラスをパクられる。意外と見えるぞと気に入ったようで、子どもたちの手から手へ移動していき、どこかへ消えてしまった。かと思えばサングラスを装着した子が帰還する。それの繰り返し。近所の小学生たちが、ももかのんあかりブースにやってくる。次第に小学生たちは六角形のブースをぐるぐる回転し始める。回遊魚のようになっている。僕たちの本をチラッと見てはぐるぐる回っていく。バターになる前にどこかへ遊びに行った。

ちびっ子たちに翻弄されながらも、僕たちは店に立つ。舞鶴に工房を構えている方がいらっしゃって、お互い興味津々でいろいろお話しさせていただいた。後日Twitterで僕たちを紹介していただいたのだが、「尖り過ぎたステキな本を売っている古書店」と書かれていて笑ってしまった。やはり尖っていたか...

 

僕たちのブースの目の前にはフード&ドリンクコーナーが鎮座している。とりあえず生ビール。そのあとハイボール。そして今年から販売を始めたというブドウを使ったフルーティークラフトビールもグビグビ飲む。饒舌多弁古書店爆誕である。酢めしオムライスを買ってきて食べる。この組み合わせを考えた方は天才に違いない。あまりに旨すぎる。

 

前回USFESでも突如やってきた玩具花火集団ヤグラドラゴンのお姉さんが現れる。急にブース内に入り、お客さんたちに声をかけて店番をし始める。

「こちらは〜、え〜と、本、本でございます〜、えー、えーと...ぼったくりです〜」

立ち読みしていたお客さんがそのまま去っていった。危うくお姉さんを海に放り込みそうになった。

 

USFESスタートからしばらく経った頃、ついにあの方がお越しになられる。前回USFESで一番最初に手作り版漂流日記をお迎えいただいたお客さん。

今回も開口一番、

「グラフィックやデザインの本ある!?」とオーダー。僕と藤本さんが合いそうな本を渡していくと、ページをペラペラめくって、

「買い!」

「買い!」

「てきちゃん漂流日記、新作できましたよ」

「えっ!?買い!」

ポンポンと即決。横に立っている我々の持つ本がどんどん増えていく。結果、信じられない量の本をお迎えいただいた。

「私が来るってわかってるんだから、次回もたくさん持ってきてよね!」

そう言い残して、爆買いお姉様は去っていった。ブースの本を確認すると、中段に並んでいた大型本がごっそり消えている。来週の「円頓寺 本のさんぽみち」には何を持っていこうと悩み始める。嬉しい悲鳴である。

 

その後もエネルギッシュなアスケンメンバーの方々が遊びに来て、わいわい本を通しておしゃべりする。僕も気合が入ってしゃべりにしゃべる。毎回売れるかなと思いつつ、なかなか売れなかった本が売れたりと嬉しいことが起きていく。漁村ポストカードも皆さん興味津々で覗いている。やっぱり地元集落のポストカードはよく売れている。ももかのんあかりのブースを見ると、朝はおもちゃが並んでいたはずなのに、いつの間にか巡り巡ってほとんどが子ども服になっていた。

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前回USFESで漂流日記をお迎えいただいたお客さんがお越しになる。なんとか生きてますとお礼をすると、ご存命で何よりですと。今じゃ忘れそうになっていることも多々あるけれど、当時はなかなか壮絶でしたから...

藤本さんが持ってきた錬金術の本など、気になる本を見つけながらブースを少しずつ移動していく。一通り見て、財布を取りに行くと戻っていった。

その間である。回遊魚のようにぐるぐるしていた小学生がピタッと立ち止まり、錬金術の本を買うというのである。どうも地元の図書館に『鋼の錬金術師』があるようで、2日で読了するくらいどハマリしたらしい。それで錬金術に興味があるという。君には国家錬金術師になる器がある、ロイ・マスタング目指して頑張ってくれ。お買い上げ。

財布を持って帰ってくるが、錬金術の本が売れてしまっている。タッチの差。次回も錬金術に関連する本を持ってこなくちゃ。

海に行ってきたらしい子どもたちが藤本さんにウニを渡す。ゲリラ古書店ウニモテキイグチの誕生である。

夕方になり、そして日が沈んで夜になっていく。夜の出店、実は初めてである。アイリッシュ音楽の流れる中、ハットを被ったかっこいいお兄さんがやってきたりする。落ち着いたバーのような雰囲気の本屋さんになる。漂流日記をいつもご覧になられてる方もいらしゃって本当に嬉しくなり、その分グビグビと飲んでしまう。

 

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お客さんがまばらになってきたあたりで撤収に入る。キャリーケースに本を詰め直す。朝と全然重さが違う!行きは怖いが、帰りはよいよい。

アスケンの中野くんと浜辺に出る。フジモテキイグチ常連で、なんなら臨時メンバーとして店に立ったこともある中野くん、いつのお世話になっております。サングラスを装着して自撮りする。それを中野くんが撮影する。後日、画像フォルダを見直して、こいつは何をしているんだと冷静に思ったのは言うまでもない。


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ボーッと燃えている焚き火を囲む。夢見心地な1日だった。これが現実だからたまらない。

翌朝、早く起きたものの布団から出たくない。9時頃に起き上がって撤収作業に参加するが、どうもバッテリーが切れているような感じがする。帰りの電車を調べると、15時着か18時着の2択。早めに帰ったほうがよかろうということで、車で駅まで送っていただき、11時半に高浜を出発した。

UMIKARAに行けてないのがもったいないが、最近は無理しない引き際というものを考えるようになった。自分の健康が今は大事、UMIKARAはまた今度。でっかい海鮮丼を食べに行こう。

 

 

帰りの列車で「化ける古書店」というフレーズを思い浮かんで考えていた。これまでショッピングモールの広場や、商店街、古民家の和室、海辺など、様々な場所で出店してきた。それぞれの場所に応じて化けていく。メンバーの日程調整が合わずに参加できなかったものの、最近は山の頂上で出店しませんかとお誘いいただいたりもした。徐々に場数を踏んでいく中で、化け方が得意になっていき、あいつらを呼べば面白くなるかもと思ってもらえるようになってきているのなら大変嬉しい。もちろん、場所に応じて化けると同時に、期待を超えるような化け方をする、この2つの「化ける」を追い求めたい。

 

一方で、この高浜にはどこか、化けてもいい包容力があるように思う。面白さを追求することへの包容力、雰囲気、それが滲み出ている人々。今後もUSFESでの出店は大切にしていきたい。僕たちにとって一番自然体でいられるイベントと感じているから。そして、USFESに、高浜にシンプルに貢献したい。だからこそ、自宅にたくさん積んである本を次回に向けて今のうちに読んで、面白いことを1つずつ見つけなくちゃ。家でどれから読もうか悩みながら、のんびりと名古屋へ帰った。