さんぽみち・レポートⅢ

知らぬ間に自宅の本棚が前傾している。マイケル・ジャクソンのゼロ・グラヴィティのようになっている。棚の奥まで挿し込む本が少ないので、重心が前にズレているようだ。しかし、棚の底面は平たいはずである。それに気づいて棚と壁の隙間を覗き込むと、床が3ミリほど沈んでいる。慌てて本棚の本を部屋中に移動させて、床面にかかる荷重分布の均等化を図る。

これは通常使用の範疇なのか。アトリエ設計事務所で働く藤本店長に相談してみると、本棚ごときで沈む家のほうがおかしいとのこと。それを聞いて少し安心するが、不動産屋としょうもないドンパチをしなければならないような気がして憂鬱になる。

 

11月6日の土曜日に「本・ひとしずく」さんが「円頓寺 本のさんぽみち」に出店される。ゲスト枠出店なので、フジモテキイグチのような一般枠に比べてブース面積が倍となる。倍になる分、どのお店も大量の本を持って円頓寺にやってくる。出店準備が大変なのは想像に難くない。ひとしずくの田中さんが本の山に埋もれている姿が目に浮かぶ。出店準備をお手伝いしようと思い、田中さんに連絡した。

 

11月5日の金曜日、午後にひとしずくさんを訪れる。新規入荷やイベント展示などにより前回来た時と本の配置や種類が変わっているので、一通り眺めて確認する。

 

まずは、什器の配置を2人で考えてみる。長机の上に細長い棚を載せてみるが、どうもぐらぐらする。本を手にとろうとした時に棚が揺れると、お客さんはちょっと不安になってしまう。それに、あまり背が高いと圧迫感が生じる。田中さんの目の位置よりも棚の天面が上になっているので、田中さんとしては棚の向こう側が見えずに気になってしまうだろう。あれこれ試してみて、棚内部の空間に少々デッドスペースが生まれるものの、棚を寝かせて使うことにする。その横に小さめの木箱を並べたりして、おおまかな配置は確定。

それにしても、かなり高く棚を積み上げるお店を結構見かける。でも、どしんと安定しているように感じる。どうやって安全性を担保しているのだろうか。ジョイント接合、重心の見極め、耐震シート。いろいろ考えてみたもののよくわからない。気になっていたのに、イベント期間中てんやわんやして出店者さんに聞いてみるのを忘れてしまった。

 

 

次は選書を考えていく。ポイントになるのは「ひとしずくさんっぽさってなんだろう?」であり、悩みながら本を手繰り寄せていく。オープン前からひょっこり現れてお手伝いしている身としては「柔らかくて穏やかな。しかし、例えば社会問題などについて真正面から向き合って考えてみたい。」、そんな本屋さんだと感じている。お客さんと歩みながら考えていく姿勢。お店での会話から、SNSでの本の紹介からそういう部分が滲み出ている。そこに照準を当てて選書を考える。簡単に言えば、瀬戸のこのお店をそのまま円頓寺に持っていったようにすればいいのだが、それが結構難しい。

田中さんと2人で本を並び替えながらうんうん悩む。ひとしずくさんの客の中では本の配置を一番覚えている自信はあるので、勝手に本を持ってきて提案したりしてみる。もはや副店長と化す。田中さんも僕にガンガン相談していき、少しずつ棚を埋めていく。でも、田中さんの店だから僕の自己主張は最低限に抑える。

例えば、フェミニズムコーナーを作ってみた時、どこかお硬くよそよそしい感じがした。奥から『おとめ六法』を取り出して、棚に試しに置いてみる。淡いパステルカラーで軽い印象だけど、中身は本格派。学校、仕事、結婚などの豊富なケースに応じた対処方法と根拠となる法律をわかりやすく教えてくれる。この本を加えた上で、入門書から本格的な専門書の順へ並び替えてみると、なにかカチャッとハマった感じがする。グラデーションが整っているように感じる。最近この本読んだけどわかりやすかったよ、なんてお客さんどうしでおすすめし合っているような、そこに田中さんも混じっていくような、そんなシチュエーションが生まれるような場にするのが大切なんだと思う。併せて、予備の在庫冊数も検討し、複数冊持っていくかどうか選別していく。

労働やケアに関する本も全体のバランスと相互関係を見ながら並べていき、お次は詩・短歌。実を言うと、僕は詩・短歌に非常に疎い。自信がないので、ここは田中さんに並べてもらう。読まなきゃと思いつつ、僕にとってなかなか手が伸びない領域である。いつもお世話になっている犬飼さんの詩集は最前線に出す。

選書が進んできたら、棚に並べる本と面で見せる本を決めていく。これも結構難しい。面で見せたほうが内容が掴みやすい本もあるし、背で語る本もある。しっくりくるまで並び替えて試す。長い時間をかけてゆっくりと本を2人で見つめ、ついにブースが完成。写真を撮って、什器・本の配置を記録する。


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今度は、これらの本を車の中へ積み込んでいく。棚に入っているものはそのまま入れて、平置きの本などはバナナ箱に入れて積み込み。いつも使っている木製の机の上から、綺麗さっぱり本が消えた。その光景を見るのは、オープン前の準備で机に本を並べた時以来だ。「今年のGWを思い出しました」と言うと、田中さんはどうも忙しさの話と勘違いしたようで、「いつもバタバタしてごめんなさいありがとう...」とめちゃめちゃ謝っていた。そっちじゃないんです...そう思いながら1人、目頭が熱くなっていた。オープンから半年。まだ半年。2年経ったような気分でいる。なんとか車に全部詰め込んで準備完了。

 

7日の土曜日、午前8時。イベントの準備が始まる。先々週と同様に僕は受付担当。遠目でひとしずくさんの設営を眺める。僕らが準備していた時の想定より貸し出し机が小さかったものの、滞りなく設営が進んでいる。ほっと一安心。

 

午前11時、イベント開始。各地点で交通整理をしながら時折本棚を眺める。さすがにシフト中ではなく休憩時間に本を買おうと思って取り置きをお願いするのだが、気づいたらえらい量になっている。戦時中の警察教科書や、昭和の全国温泉・観光地案内も購入。パラパラとめくると、今は埋め立てられている兵庫県芦屋市の海岸が、海水浴場として紹介されている。買うしかないでしょ。

商店街の入り口の方で絵描きさんが出店されている。実は、僕が名古屋に引っ越した頃に似顔絵を描いていただいたことがある。挨拶すると、僕のことを覚えていらっしゃってびっくりする。こういう不思議な出会いが多くて楽しい。

 

休憩時間にひとしずくさんのブースを覗く。大盛況でみんな本をじっと見ている。だけど、その目はどこかほんわかしている。鷹のような鋭い目をしていない。たぶん、どこかそういう力が田中さんにあるように思う。みんな実店舗に足を運んでおくれと遠距離から念を送る。犬飼さんも現れ、円頓寺なのにここは瀬戸のような不思議な感じ。

田中さんの代わりに店番をする。フジモテキイグチで場数を踏み、なんならオープン当初は僕もレジをしていたので、全く緊張することなくもはや慣れている。カバーに書かれた数個のキーワードだけで本を推測して購入するひとしずくさんの名物「ないしょ文庫」の説明をしたりと、いろいろなんとかなる。

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試行錯誤しながら思い描いていた姿が形になる。その瞬間ほど嬉しいことはないと思う。

貴重な経験をさせていただきました、本当にありがとうございます。

 

あっという間に日が沈む。明日は僕たちの出店だ。僕たちの番だ。