さんぽみち・レポートⅣ

フジモテキイグチのインスタを見ると、「美鶴堂」という謎のアカウントからフォローされている。一体何者なのだろうとプロフィールを確認してみると、どうやらつい最近結成した古本屋ユニットのようだ。そして、我々と同じく「円頓寺 本のさんぽみち」の最終日に出店するらしい。93年生まれの3人組、同世代。過去の投稿を見てみると3人のイラストが流れてくる。真ん中には書店員さんの格好のお姉さん、本職だろうな。その両隣でパソコンをカタカタ叩いて仕事する2人。メンバー3人の頭から浮かぶ吹き出しには「本が読みたいなぁ」という言葉。ワーカホリック&読書ホリック。

 

【美鶴堂さんプロフィール文の引用】

できれば家でずっと読書だけしていたいけれど、好きな本を好きなだけ買えるように社会に出ています。

 

書籍版漂流日記のプロフィール文と全く同じことが書かれており、シンパシーを感じる。フジモテキイグチのグループLINEで彼らのことを共有する。

 

藤本さんが言う。

「これは全員メガネvs全員コンタクトの戦いの火蓋か、、、!全古本メガコン闘争だ!」

いぐっちゃんも言う。

「全員コンタクトなの?裸眼いないのか」

 

あんたら注目するところおかしくない?

 

藤本さんといぐっちゃんは年がら年中メガネをかけている。一方、美鶴堂さんのイラストを見たところ、これはおそらくコンタクト。メガネVSコンタクトの仁義なき戦いが始まった。とりあえず、「フォローありがとうございます。当日はよろしくお願いいたします〜」と丁寧にメッセージを送った。しかし、メガネとコンタクトでしばき合う時が刻々と近づいている。

ちなみに、僕は左目近視で右目遠視のため、左目だけ度が入ったメガネをかけている。メガネが無くても一応見えており、裸眼やコンタクトで街へ出たりすることもある。永世中立国、視力矯正界のスイスである。2対3でも頑張れフジモイグチ。

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6日の土曜日の夕方、本さんぽ3日目が終わる。いぐっちゃんは今日は仕事で東京におり、深夜に名古屋入りの予定。藤本さんは仕事でとんでもなく遠いところにいるらしく、兵庫の自宅に帰るのが23時ごろ。それから選書を始めて、明日の始発で名古屋入り。

藤本さん、絶対に寝坊するだろうな。預言者でなくても未来が見える。モーニングコールしましょかと提案するが、大丈夫大丈夫と彼は言う。それでも押し切り、モーニングコールするからマナーモード切っといてと強めに圧をかける。左腕に装着したスマートウォッチにアラームをかける。

 

 

翌日、早朝5時半。自分から提案したものの、なーんで俺がこんなに早く起きなくちゃならんのか。とりあえずLINEで藤本さんに通話する。出ない。

インスタグラムから通話してみる。出ない!

あんにゃろう、マナーモードにしてやがるな。これで出なかったら寝ようと思い、もう1回かけるとようやく起きた。お互いむにゃむにゃで、今日はよろしゅうなどと言って通話を切る。もう一眠りしようと思ったが、そわそわして寝れなくなった。藤本さんが新幹線で眠ってしまい、新横浜まで行かないかどうかが最後の関門。

 

藤本さんが予定より20分早く名古屋に着いたので、カフェで仕事すると言う。しばらくして、容量が大きい仕事関係のデータをアップロードしていたら、91%まで送ったところでノートパソコンの電源が切れてしまったという。プランが全部おじゃん。アップロードできるかどうかギリギリまで粘っていたため遅刻確定。僕の自宅ではなく商店街で合流することにする。商店街の横の堀川に沈めてたろかほんま。

いぐっちゃんが僕の家に到着、机などを運び出す。藤本さんが珍しい形の建物を見つけたら写真を撮ったりするので非常に歩みが遅い。結果、大遅刻。僕といぐっちゃんがぷんすかしている。受付をして、机を置いて本を並べていく。藤本さんが持ってきた漁村ポストカードや本の配置を決めていくが、睡眠時間3時間の藤本さんとびっくりするほど話が噛み合わず僕といぐっちゃんが若干キレ始める。それでもなんとかイベント開始前に体裁は整えて、急げ急げと2人に値札を書いてもらう。

前回とは異なって今回は本部に近い一等地である。左隣は来年開業予定の「古本屋 かえりみち」さん。その隣は大量の本を並べているプロの「古本屋ぽらん」さんと「古書からすうりさん」。棚がそびえ立っている。一方、我々はというと自宅から持ってきたデスクとローテーブルで設営しているので低いのなんの。それも味といえば味であるが。積み上げて高さを確保しつつマトリョーシカみたいに収納できる木箱を作って、車で運ぶなどの案を検討すべきな気がしてくる。テキイグチはペーパードライバー、フジモは無免許。僕が運転できるようにならなあかんかこれは...

ちなみに、右隣には下駄などの履き物を扱っている野田仙さん。お店の前にはアートを中心に本が並んでおり、昨日はダイアグラムとビジネス文具に関する図録を2冊購入した。現在は電子メールでやり取りすることがほとんどなので、洗練されたデザインのビジネス文書が真新しく感じた。今日もよろしくお願いしますと野田仙さんに挨拶する。

 

午前11時、イベント開始。ブースの写真を撮ってSNSに投稿する。写真を見るといぐっちゃんの目が虚ろになっている。後ろを振り向くと、椅子に座ったいぐっちゃんが虚無を見つめている。これは救急車を呼ぶ事態かと恐る恐る声をかけてみると、どうやら前日は始発で東京入り、終電ギリギリで名古屋入りしているようで体調が悪いとのことだった。僕と藤本さんで店を切り盛りするから、いぐっちゃんは寝てていいよと伝える。ブランケットを用意するべきだったと少し後悔する。藤本さんの持ってきた『シャーマン』が売れる。眠っているいぐっちゃんを指して、今降りてきてますとお客さんに嘘をつく。いきなり濃い内容の本が売れてますなと藤本さんと一緒に驚く。

 

仕事柄、藤本さんもいぐっちゃんもワーカホリックなところがある。今ではそこまで働かんでもと思うけれど、かつての僕もそうだった。仕事をしているとドーパミンが出て幸福な感じがしていた。でも、それでちょっと無理をしすぎちゃって今に至る。そのマイナスな面をたんと味わってしまった。2人に余計な負荷をかける訳にはいかない。

仕事と古書店活動の両立を考えると、結構綱渡りでギリギリな状態だと思う。各自でスケジュール・健康管理しつつ、休職中で暇な僕が全体のマネジメントをする形で運営してきた。特に、いぐっちゃんは社会人1年目なので、古書店活動による負荷がなるべくかからないようには気をつけていた。ただ、若干無理が生じつつある状況で、僕が社会復帰したらもっと歪んでいきそうな気がする。瞬間最大風速よりも持続性に重きを置かなくてはならないのだが、ゲリラ古書店の性質上、風速(面白さ)に目が移ろうことがしばしばある。

実は、フジモテキイグチの出店においては僕は皆勤賞である。毎回僕が運営とのやり取りなどをしている。だから、一度藤本さんといぐっちゃんの2人で出店して、今のうちに経験を積んでほしいと思ったりする。趣味なのに中間管理職のような悩みを抱えている。f:id:labotekichan:20211111105505j:image

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藤本さんのエンジンが徐々にかかってきたようで、漁村ポストカードを見せながらお客さんとペラペラ話している。「スタミナの藤本」なので大丈夫と思うが、一応たまに様子を確認する。藤本さんが14冊の「まんがで読破シリーズ」を今回持ってきた。カフカの『変身』、『コーラン』などの名作文学を漫画で楽しめるイースト・プレスのシリーズ。あまりにいっぱい持ってきたので特設コーナーを作る。

お客さんが特設コーナーを眺めている。突如ドサッと何冊も腕で抱える。気に入られたらしく、さらに積み上げて12冊ご購入される。これにて特設コーナーは早々に消滅。残された2冊の中には九鬼周造の『「いき」の構造』が混じっていた。あの本をどうやって漫画にしているのか。非常に気になって売れ残っていたら買おうと思ったが、すっかり忘れていた。藤本さんに今度会ったら借りよう。僕が持ってきた1999年の商品パッケージデザインカタログを藤本さんに見せながら、全然現在とデザインが変わらないムシューダの凄さを説く。

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ついに、美鶴堂さんが現れる。来てよ来てよ!と誘われ、あれれれと僕は引っ張られあっという間に連れてかれる。行ってみると、美鶴堂さんのブースは本当に初めての出店なのか疑いたくなるほど洗練されていた。面で本を見せられる棚も用意し、見せ方が非常にうまい。僕らが初めて出店した時は、細長い木の板の上に本を並べて闇市みたいな見た目だった。錆びた包丁も売っていたし。

交差点の角で2方向に面しているのがズルい、いいなあ。本屋さんの格好をした3人が接客していて賑やかである。本のジャンルは文芸とアートが中心。チェックシートに丸をつけたら選書してくれるサービスもあるようで、本職の方がいるとやはり心強いと思った。どうやって棚を運んだのか聞いてみるとやはり車とのこと。公共交通機関を駆使するフジモテキイグチの転換期かもしれない。

美鶴堂さんのブースでTASCHENの『FASHION NOW』を発見。2000年代初期の世界のファッションを記録した大型本。Amazonの欲しいものリストにも入れていたような気がある。迷わず購入。あとで6人で写真撮りましょうとお誘いいただいて、嬉しくてルンルンで帰る。

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フジモテキイグチのブースに戻ると、シャーマン井口が目覚めている。僕といぐっちゃんで接客し、藤本さんが他の店を見に行くことになった。

40分ほど経っても藤本さんが帰ってこない。漁村ポストカードの詳細な説明を残された2人ができる訳もなく、またもぷんすかし始めるいぐっちゃん。しょうがないので昼食を買いつつ藤本さんを探すことにする。しばらく歩くと、大量の本を抱えた藤本さんが美鶴堂さんのブースを物色しているのを見つけ、背後から尻を蹴って首ねっこを掴んで連れ戻す。その道中に「なごのや」さんで唐揚げと名物のたまごサンドを買う。僕はたまごサンドができあがるのを待ち、藤本さんに唐揚げを持って帰ってもらう。いぐっちゃん怒ってるだろうなあと内心思っていた。ブースに戻ると、唐揚げを目にしてご機嫌ないぐっちゃんがいる。騙されるな、井口。

 

それからも店に立ち、フジモ・テキ・イグチの3人はお客さんとおしゃべりする。雰囲気が少し違うので、USFESみたいなフルスロットル漫談とはいかないものの、隙をついて声をかけておしゃべりする。本もいい感じに売れていく。

歩いていたお客さんが僕らの看板を見て足を止める。まさかの漂流日記読者の方だった。どこで購入されたのか伺うと、長崎市の書店「ウニとスカッシュ」さんのオンラインストアだと仰って合点がいく。以前Twitter漂流日記を紹介してくださった方だ。ここで出会うなんてとお互いびっくりしている。サインを書くことになり、緊張して震える手でペンを持つ。借りてきた猫のような縮こまったサインになる。出直して参ります。

2年前にボランティアスタッフをし、今は別の街に移られている方が遊びにやってくる。昨日も本さんぽに遊びに来られていた。彼も体調を崩してしばらく休養していたとのことで、病気のことなどあれこれ話す。そして、今日漂流日記を買いたいとのことで来てくださった。漂流日記をお願いしますと手渡す。2年ぶりの本さんぽ、久々の再会も多い。

愛知県内の本屋さんで漂流日記をお取り扱いいただき、ひとしずくさんのひとはこ本屋にも出店していることから、どうも僕らの知名度が上がっているようである。何者かよくわからないが、なんか見たことあるぞと。東海地方にも徐々に侵食し始める不思議集団フジモテキイグチ。

 

スタッフのKさんが僕らのブースに登場する。彼女も漂流日記の大ファンとのことで、それを聞いて以降すっかり仲良しである。10月の本さんぽでは1冊1冊に一言コメントを添えた僕らのスリップ(値札)に衝撃を受けたらしいのだが、書店員である久禮亮太さんの『スリップの技法』を偶然本さんぽで見つけて購入・読破。そして、本当に良い内容なので絶対読んでと僕に猛プッシュ。僕も昨日たまたま発見して購入した、読まなければ。とにかく勉強熱心な方である。そして、会う度にめちゃめちゃ褒められるので、褒められ慣れていない僕は毎度タジタジになってしまう。

彼女の手には漢 a.k.a. GAMIの『ヒップホップ・ドリーム』。本部には各々の古本を入れてスタッフが販売する箱が設けられている。毎朝、スタッフが箱に群がって本の背を目でなぞる。読みたい本がかぶった時は回し読みなど相談する。『ヒップホップ・ドリーム』も案の定かぶって、Kさんが昨日購入して、一夜で読破し、今僕のもとへ回ってきた。

スチャダラパーHALCALI、Charisma.com、Chelmicogroup_inou。ラップのある曲はよく聴くけどHIP HOPをよく知らない。練マザファッカーのMCであるD.Oの「いいぜメーン」みたいな決め台詞しか知らない。これもまた勉強の1冊。

 

それからも様々なジャンルの本がトントントンと売れていく。今日もあっという間に薄暗くなっていく。隣の野田仙さんから、僕が昨日買った図録のシリーズを持ってってよとお声を掛けていただき、ありがとうございますと頂戴する。90年代の企業パンフレットの図録など、激アツである。

16時、ついに古本の祭典が終わる。最高の4日間、多幸感。美鶴堂さんと記念撮影する。メンバーを互い違いにして撮ってもらう。スリーピース古書店の対バン。他にもフジモテキイグチ3人の写真も撮っていただいた。美鶴堂さんにお礼して、急いで撤収作業に戻る。

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片付けたら商店街のスペインバルで反省会をする。反省点は2点。藤本さんの遅刻と失踪。そのくらい。高さを出せる箱が欲しいななどと話していると、美鶴堂の宙さんが現れる。何をしているのか聞いてみると、エモくなって商店街の写真を撮りに戻ってきたとのこと。そう話しながら彼は少し照れている。4人で机を囲み、今日のこと、本、メンバー、グループのことを話して盛り上がる。結成の経緯とか話したいよね、そしてそれを配信や紙媒体で残したいよねと意見が一致し、僕と宙さんでLINEを交換する。僕のプロフィールのヘッダー画像がYUMEGIWA LAST BOYのMVになっていることに彼が気づく。彼もSUPERCARが好きなんだって!

今日はなんて素晴らしい日なんだ。ぷんすかしていたが、終わり良ければすべて良し。

ここから広がって自主企画などできたら楽しいだろうなと話す。昨日はこれまたスリーピース古書店のたわわ書房さんが出店されていたし、誘ってみるのもありだわな。

 

写真を現像しに宙さんが帰り、いぐっちゃんも帰宅してすることがあるようで早めに帰る。それから、僕の自宅で藤本さんと今後のイベントや古本市情勢などに関する真面目な話をする。次のイベントに向けて考えていた案を伝え、それでいこうとOKを得る。藤本さんが帰った後の僕の部屋は本で埋まっており、片付けるのが面倒になって速やかに眠った。

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翌朝、早めに起きる。なんだか身体がうずうずしてベッドから飛び起きて外に出る。身体が乗っ取られるように円頓寺商店街へ向かって進む。そこは昨日の風景が夢だったかのように静まり返った商店街。こっそり1枚写真を撮る。2年前も同様に早朝の商店街を撮ったことを思い出し、1人ふふっと笑った。

円頓寺・高浜・円頓寺と3週連続出店、ボランティアスタッフと出店の二刀流。夢の中にいるような日々を駆け抜けて、今までとは違う形の幸福を見つけたような感触を得る。三木清が『人生論ノート』に書いているような、成功体験とは異なる形の、固定観念を打ち破るような幸福。この街には面白い本や愉快な方々がたくさん隠れている。見えていないだけで行進している。夢の中で出会った人々と、現実でもまた会える。みんなの足跡を辿っていけば、さらに素敵な出会いが広がっていくのだと確信する。漫画の舞台のような、不思議なこの街にもっといたいと強く感じた。

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