翡翠色の渚にて

食欲が無い。元気が無い訳ではない。ただ、何も食べなくても生きていけるような感じがする。必要性を感じない。これは危ない兆候だと思って、無理やりにごはんを食べる。たぶん躁気味。

セブンイレブンに行く。ファミマの専売特許と思っていた芋焼酎ハイボールがついに並んでいるので買ってしまう。

麦もいいが芋も旨い。さくら白波ハイボールの、焼き芋のような香ばしくもある甘みが好きだったのだが、最近は店に並んでいるのを見ない。最近よく飲むのはいいちこハイボール。あとは翠ジンソーダ缶。柚子・生姜・緑茶のほのかなフレーバーが鼻をくすぐる。スッキリとした味わいで本当においしい。あんまりにも好みの味なので、ついつい連れて帰ってしまう。そうして台所にズラリと並んだ缶が爽やかな翡翠色に光っている。お酒はほどほどに。

 

スマホでSUUMOを眺める。住みたい鉄道沿線を決めて、ロフト付きの物件を探している。ロフトに本を並べて書庫にしたい。ビーズクッションをロフトの中央に置きたい。有給休暇をとって、昼間から翠ジンソーダを飲みながら、低い天井に安心感を覚えながら、四方八方を本に囲まれて、柔らかなクッションに沈んでぬくぬくと読書したい。でも、1年半も休職しちゃったもんだから、来年度の有給休暇取得日数は少ないようだ。じゃんけんで同僚の有給休暇を奪いたい。そんなことばかり考えている。

 

結局先月に彼女さんと別れちゃったけれど、滝沢歌舞伎のチケットが当選してやべえやべえとLINEで大騒ぎしたりする。相変わらず豪運の人である。

またLINEが届いたので見ると、「てきちゃんここ好きそう」と古本屋さんの画像が送られていた。奥行きの長い通路の両側に、本が天井近くまで並んでいる。頭上にだっていくつも棚がある。行くしかない。

自宅から自転車で坂を越えて藤が丘の「千代の介書店」さんに行く。文芸・哲学が中心、読書家たちのユートピア。開店してすぐに行ったので、まだお客さんは少ない。没頭しながら本の背を追う。最奥部で珍しくカラフルな背を見つける。目次と序章を確認して、探し求めていたのは間違いなくこの本だと確信し購入。こりゃ漂流生活を締めくくる本かもしれないぞ、豪運が移ったなあとホクホクしながら自宅に帰る。思い立ったが吉日。

 

手にしたのは未来学者アルヴィン・トフラーの『未来の衝撃』、1970年の本である。半世紀前の未来予知の本なんか何を今更と思われるかもしれないが、そうではない。この本はただひたすらに人間の心理を追っている。

科学技術の指数関数的な発展、膨れ上がる情報量と選択肢。一方で、発展が非常に緩やかな人間の知覚・認識・意思決定能力。この2つのギャップから、身体的にも精神的にも過度な負担がかかってしまい空中分解する可能性がある。人間に迫るその危機を彼は「未来の衝撃」と呼ぶ。

既に僕も分解しちゃったのかなと思ったりする。一応デジタル・ネイティブに当てはまるらしいので、変化の速さには鈍感なのかもしれない。半世紀前に位置する成長曲線の緩やかな麓から、このご時世を眺めてみたい、そういう次第で手に入れた。それで読んでみると案の定面白くて、猛スピードで読み進める。章を飛ばしたりしつつも500ページ超の分厚い本をあっという間に読み終える。あくまでも、変化を拒まずにその中でどう振る舞うか、そこに焦点が合っているのが非常に良い。古くない。フジモテキイグチのインスタで書評を書かなくちゃ。絶対にフジモテキイグチでは売らないぞ。

 

こういう未来学者の本を読むと、サイバネティクスのような本が読みたくなってくる。本棚をガサゴソと探すのだが、あったはずの『サイバネティクス全史』が無い。フジモテキイグチで売ってしまったか。

ガンダムも見たくなる。父の英才教育によって小学生の頃にガンダムを全話見たというもの、シリーズ全般それなりに詳しい。ただ、最近の『機動戦士ガンダムUC』などはよく知らない。メカニックデザインが好きなのは1980年代後半の『ガンダム・センチネル』だが、原作の小説を残念ながら読んだことがない。この作品もパイロットの処理能力をマシン内のAI、"ALICE"がサポートして戦うストーリーである。読んでみたい。ダメ元で検索すると、図書館の書架に眠っているらしい。

 

今日、久々にコートを着ずに図書館へ向かう。なんだか街は警備員が多くてよそよそしい。今日はウィメンズマラソンの開催日だとすぐに思い出した。

なんだか今日は久々にめまいっぽい。まあ耐えられる程度ではある。どうしてめまいが起きるのだろうか、ビタミン不足なのかしら。図書館に着いたが、書架整理のため16日までお休み。メソメソしながら自宅に帰る。思い立ったが仏滅。

布団の上で天井を見る。確かに少し揺らいでいる感じがする。僕の予想だと次の鬱は3月下旬。引っ越し準備と重なってほしくねえなとひたすらに祈る。

センチネルが読める日がかなり先になってしまったので、代わりに長らく本棚に鎮座していたネヴィル・シュートの『渚にて』を読み始める。冷戦期の核戦争後の世界を描いた作品。ただ、とても儚い物語であることを知っている。読んでて落ち込まないか、少し不安に思う。