区民センター出向

前回の日記から20日経過、ようやく書く気になったが何から書こうか。時が経っていくほど、順序立てて書くのが面倒くさく感じてしまう。

 

盆明け、なんとか火水の2日間働いた。ただ、徐々に蓄積されていた漠然とした怯え、恐怖が生活に支障をきたすようになる。休みの期間に温泉に行ったりして見ていないふりをしていたが、日常に戻ってしまえば何もかも崩壊する。働いていても、頭の回転が止まっているし、震えてしまって踏み込めない。夜も眠れない。頭だけが熱っぽい。死ぬ気は無いが、ふと死ぬことを考えては怖くなる。真夜中、気が狂いそうになる。さすがに明日は休もうか、そう思って早朝4時に欠勤のメールを送信する。

 

木曜日、9時くらいに起きる。本を手に取るが文字の列がチカチカして読めない。ニンテンドー3DSを充電して、『ポケットモンスター ムーン』をプレイする。いわ・はがね・じめんタイプのポケモンを乱獲しては各地を巡る。

ポケモンばかりしている訳にはいかない。料理は仕事を忘れさせてくれると上司が以前仰っていたのを思い出す。自炊してみようかと近所のスーパーに出かけるが、軽いめまいが発生している。視線を回転軸として、右回りにぐるりとしている。こりゃいよいよヤバいかもしれない。さっさと買い物を終えて家に帰り、料理する。味玉を作り、水餃子を作る。大好物である壬生菜の漬物も買ってきた。最初はこんなものでしょう。

布団に潜ってぼんやりと考える。前回とは異なり死ぬ気は無い。そうとなれば、適応障害のような、双極性障害とは別物かもしれないな。でも、医者じゃないからわからんな。ただ、つらいな。そうして今日も夜も眠れず。

 

金曜日、なんと14時に起きてしまう。さすがにドン引きする。会社に欠勤の連絡をしていないが、寝起きでさすがに頭が働かない。ひとまずスーパーでシュークリームを買って糖分を摂ろうと外出、帰ってきたら先輩(大学時代の親友でもある)が青ざめた顔で家の近くに立っている。その背後をこっそり歩いて部屋に戻る。インターホンが鳴っている。出るか出ないか非常に悩む。誰にも会わず閉じこもってしまいたい。そう思っていたけれど、みんなに迷惑を大いにかけていることを申し訳なく思い、観念して出頭する。話を聞けば、30分後に上司が家にやってくるらしい。気絶したように眠っている間に大騒動を起こしていたのである。20分で急いで家を片づけ、残り10分でノートに今までの経緯を書き殴る。

上司到着、てきちゃん邸の不思議な間取りに驚いている。経緯や症状を説明する。元気になったら来週から働いてもいいし、ヤバかったら休職してもいいとのこと。上司から手書きの手紙を手渡される(引きこもって会えないのではないかと思っており、せめてポストに入れようとお書きになったとのこと)。本当に申し訳ないことをしてしまった。綺麗に書かれた文字を読んで、働かなきゃだよなあと感じる。シュークリームを思い出し、冷蔵庫から取り出して頬張る。翌日、念のために心療内科に行くが、休職の診断書は書いてもらわなかった。

 

そうそう、この頃にAPD(聴覚情報処理障害)の検査を受けたんだった。両耳ともに、音声を情報として処理するのが苦手とのこと。2つの音が混ざって、ぼんやりとした1つの音に聴こえてしまうようだ。逆に雑音や不注意による影響はほとんど無し、集音器などは僕には効果が無いだろうとのこと。それがわかっただけでも安心ではある。

 

週末を終えて月曜日、結局踏み込む勇気が出なかった。健康診断を終えて会社の最寄り駅に着くが、頭から陽炎が立ち昇るかのように熱い。前が揺らぎに揺らいでいるし、足が震えている。もうダメだ。欠勤の連絡を入れ、家に帰る。ポケモンをしようとするが、3DSの充電コードが断線していた。いよいよすることが無くなり、Youtubeサカナクション相対性理論のライブ音源が転がっていないか検索ページをさまよっていた。

完全に自閉モードに入っている。前回の休職で傷病手当金を満期分受け取っちゃった。双極性障害の病名のまま今回休職すると、たちまちド貧乏である。心療内科に再度行って休職診断書を書いてもらったが、その時に病名が適応障害とかになんないっすかねえと聞いてみたがダメ。そりゃそうだ。自分が悪いのはわかっているのだが、このどうしようもない状況はさすがに身に応える。

実家に遊びに行って、帰省中の弟と会う。今ではたまにしか会わないが、彼もすっかり大人になって相談というか雑談にのってくれる。本当に助かる。親に休職しそうかもと告げて自宅に帰る途中、橋の真ん中を歩いていると身を放りたくなる。自暴自棄になりたいが、なる勇気も無く、トボトボと家に帰る。

 

上司と部長と面談する。1ヶ月休職することに決める。別に今の会社に縛られなくてもいいからねと上司は仰る。就労移行支援とか使ってみてもいいのではと提案を受けるが、卑屈になり尽くした僕は「辞めちゃえってことなのかなあ...」なんて、絶対そういうニュアンスを含んでいないのに内心でむにゃむにゃ考え込んでいる。

 

ふと、上司からミッションが与えられる。

「音楽に読書と僕の趣味があまりにもインドアすぎるので、休職するこれからの1カ月間は身体をガンガンに使うアクティビティに没頭するように」

とんでもない衝撃を与えてしまえば、僕の低すぎる自己肯定感も、ネガティブすぎる性格も良い方向に変わる可能性は確かにある。2人は僕にベンチプレスをさせたがっていた。1ヶ月後にゴツくなった僕が現れるのを想像して2人はニヤニヤ笑っている。身の去就の話をしていたはずが、フィジカルの話をしている。休職診断書を手渡して解散、駅のベンチに座ってどうしたものかと物思いに耽る。

酒と餃子で顔は丸いが、身体はそれなりに細いのがてきちゃんである。ゴツくなりたいとは一切思わない。スマホで検索しながらあれこれ考えてボルダリングに決める。ボルダリングならゴツくならない、数回したことがある、屋内だし熱中症の心配はない。さらにリサーチを進め、都心のボルダリングジムに行くことを決める。今月は僕の誕生月、特典でこのジムの月間パスが半額になるらしい、お得!

そうと決まって、早速ユニクロで半袖半ズボンを2着ずつ購入する。思い立ったが吉日、善は急げ。近くのスポーツショップでクライミングシューズ売り場も見てみるが、どれがいいのかわからず撤退。まずはレンタルシューズでやってみよう。

どうせ1ヶ月ガチでやるのだから目標を立てたい。猿みたいにひょいひょいと壁を登っていく動画を撮って、2人に見せつけてしまおう。その過程を日記に書いて、ちゃんと外に出たという証拠として残しておこう。加えて、PDFになった日記がグループウェアに拡散され、読んだ全社員が感化され、社内のボルダリング人口が爆増し、本社オフィスの壁がクライミングウォールになってしまえば。昼休みに弁当を買おうとふらり外に出た他社のサラリーマンが衝撃を受け、ボルダリングにハマってしまえば。そのようなことが繰り返され、やがて日本を覆い尽くし、ボルダリングが国技となってしまえば。なんてことばかり考えている。

せっかくの1ヶ月なので、存分にはっちゃけてしまえと若干投げやりになっている。

 

顔面蒼白で僕の家に来た先輩が翌朝僕の家に襲撃し、寝ぼけ眼でランニングに駆り出される。近所を走るが、中学時代にバスケで発症したオスグッドのせいですぐに膝が痛くなる。先輩曰く、小幅で走ると脚の負担が減るらしい。それでも痛い。

久々に走ったものだから身体がびっくりしている。頭がちょっとクラクラする。帰り道、バンドマンみたいなカップルがスーパーから出てきたが、彼氏が1Lのファンタともやしを持っていた。レジ袋の値段がもったいないとはいえ、その姿は異様である。彼女さんが手にしているものを見逃したため、献立に見当がつかず。限られた情報で導き出されるのは、もやしのファンタ煮。

これから涼しくなっていくのだから、ランニングもいいのかなと思う。雑念が確かに離れていく。以前、川上未映子がランニングは精神安定にいいとツイートしていた。川上未映子が言うのだから間違いない。そういえば、哲学文筆家の池田晶子もよく走っていた。走っている間に閃いて、家に帰ってランニングウェアのまま執筆に没頭していたこともあるらしい。電車に乗って都心に向かい、大川や大阪城公園を走るのもいいだろう。

 

障害者手帳を持っているため、区民センターのトレーニングルームが無料で利用できることが発覚する。ボルダリングから予定変更、筋トレにする。しかし、ゴリマッチョになる気は無い。スマホを手にしては「細く ジム メニュー」等と検索する。リサーチにより、オーソドックスな筋トレの種目をある程度把握した。紙に筋トレメニューを書き出してみるが、本当にできるのだろうか。各種目名もカタカナだらけで内容がよくわからない。ラジオ体操の「腕を上にあげ胸をそらす運動」みたいな感じで改名してほしい。

フィットネスシューズを買いに、スポーツショップへ買い物に行く。どれがいいのかやはりわからず、体育館シューズみたいな安いものにする。ランニングで痛めた右膝が悲鳴を上げており、階段の1段1段が本当に辛い。帰りにスーパーで値引きされたザバスを発見、根こそぎ購入。何故ザバスと言うのだろうか。ついでに鶏むね肉も買ってみる。

処方された薬を飲んだ後にノンアルレモンサワーを飲むと、酩酊することが判明、二度としない。ぐったりとした後に目が覚めて22時、Youtubeでジムの機器の使い方を勉強する。マッチョな人間のチャンネルは威圧感が凄い。画面いっぱいの筋肉、そんなに見せたいか。スポーツジムのチャンネルならば、細マッチョな方々が登場。説明も簡潔でありがたい。本当に効いているのか不安になったらマッチョチャンネルにすがるのだろうか。残暑の続く今は少し暑苦しい、冬が良い。春はあけぼの、冬はマッチョ。

 

11時頃、着替えを詰めた手提げ片手に区民センターまで向かう。道中、スシローの窓をちらりと見ると、テーブル席で女子高生が寿司をもぐもぐ食べていた。昼から寿司は羨ましい。こちとら今から修行である。

到着してトレーニングルームを覗き込むと、これでもかと老人たちがひしめき合っている。怖いけれども覚悟を決めて突撃する。受付がどこかわからずにまごついていたら、通りがかったおばちゃんが場所を教えてくれた。来るもの拒まず。着替えてシューズを履き、初回者講習を受ける。基本的なルールを教わり、どんな器具があるぐるりと確認、それが終わって筋トレ1日目スタート。

じいちゃんばあちゃんが筋トレしている光景は異世界である。ここで交友が生まれるのか、常連たちがしょっちゅう挨拶している。ランニングしているばあちゃんの横から別のじいちゃんが声をかけたりしている、ほのぼのとしている。かと思えば、筋膜リリースに用いるようなフォームローラーでばあちゃんがじいちゃんの尻をしばいている。えらいところに来てしまった。老いらくの恋はゲートボールと区民センターから始まるのだろうか。

影を薄くしながらルームの隅でストレッチをして、まずはウォーミングアップにエアロバイクを30分ほど漕ぐ。前方のテレビに映ったワイドショーをぼんやりと眺めながら無心で漕いでいる。

その次は、チェストプレスやらスクワットの器具でトレーニングしてみる。これらは油圧で負荷がかかるタイプで、最大負荷にしても余裕。えっさほっさと身体を動かす。

それが終わったら、今度はおもりで負荷をかけるタイプの器具に挑戦。体重の1/3~1/2程度の負荷から始めるのがよいと聞いていたが、それでもかなり辛いものがある。太ももがありえない伸び方をしていないだろうか。苦しむ度に上司たちのニッカニカの笑顔が脳裏をかすめ、「ちくしょ~」と思いながら力を振り絞る。目標の回数はかろうじて達成し、今日はこれくらいで勘弁してやらあと逃走。

最後にエアロバイクをもう30分。合計で25km分くらい走っている。ランニングマシンよりもエアロバイクの方が膝にかかる負荷がだいぶ小さいので良い。稲盛さんが亡くなってもうたか等、再度テレビをぼんやり見ている。

筋トレ1日目の感想は「じいちゃんばあちゃんマジで元気」、これに尽きる。僕よりも動いているぞ、負けてられない。じいちゃんばあちゃんをなめていた。家に帰る途中、スシローを覗くと同じテーブルで女子高生が寿司を食っていた。6時間寿司を食っている可能性もなくはない。今日の夕飯は鶏むね肉の味噌マヨネーズ焼き。思ったよりもふっくらとしていて美味でした。

 

ネットには僕の知らない情報が実にたくさん埋もれている。そう、鶏むね肉に片栗粉をまぶすとパサパサにならないことを知る。確かに、昨日食べた味噌マヨネーズ焼きの調味料セットにも謎の粉が付いていた。

ネットで鶏むね肉を使った料理のレシピを検索し、親子丼なら作れそうと感じる。レシピを見ると、やはり片栗粉を使っている。早速スーパーで片栗粉と玉ねぎを買う。

鶏むね肉に片栗粉をまぶし、玉ねぎやら麺つゆをフライパンに放り込み煮込んでいたところ、徐々に片栗粉が溶けだしてとろみがつき始める。こりゃ大丈夫なのかと不安のままフライパンの中を見ていたら、仕舞いには離乳食みたいな見た目になってしまった。ちゃんと片栗粉の量はチェックしたのだが。味は親子丼だが、つらい。

 

スーパーで値引きされた餃子を見つける。クーンと鳴いておりかわいそうだったので家に連れて帰り、20個食べた。このようにして後付けのチートデイが生まれることを知る。

そうしてのらりくらりと、週2~3ペースでじいちゃんばあちゃんに混じって筋トレをしている。少し痩せた、体脂肪率も下がり始めた。時折、僕は一体何をしているんだと正気に戻る時がある。でも、同じ阿呆なら踊らにゃ損々とも思う。